甲状腺がんについて

奈良甲状腺クリニック 院長
中村 友彦
(日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医)

甲状腺がんとは

  • 甲状腺には腫瘍(結節、しこり)ができる場合があり、「良性腫瘍」「悪性腫瘍(甲状腺がん)」があります。
  • 甲状腺がんには、乳頭癌、濾胞癌、低分化癌、未分化癌、髄様癌、リンパ腫などがあり、それぞれ特徴が異なります。
  • 日本の場合、甲状腺がんの90%以上が乳頭癌です。

甲状腺がんの原因

  • 多くの甲状腺がんができる原因は不明です。
  • 甲状腺がんは、男性よりも女性に多く見られます。
  • 若い時に放射線被曝があると、甲状腺乳頭癌の発生リスクが増えることが知られています。
  • 甲状腺髄様癌の約40%は遺伝性に発生します。

甲状腺がんの症状

  • 甲状腺がんが小さい場合は、症状がほとんどなく気が付かないことが多いです。
  • 甲状腺がんが大きくなると、しこりとして触れたり、甲状腺の腫れが目で見て分かるようになったりします。
  • 甲状腺がんが反回神経(声帯を動かす神経)に浸潤して嗄声(声のかすれ)が出てくることもあります。
  • 甲状腺がんが首のリンパ節に転移して、首のリンパ節が腫れる場合もあります。

甲状腺がんの種類と特徴

  1. 乳頭癌(にゅうとうがん)
    日本の甲状腺がんの中で最も多く、90%以上を占めます。進行が非常にゆっくりで命に関わることは稀ですが、リンパ節に転移することが多く、中には再発を繰り返す場合もあります。超音波検査や穿刺吸引細胞診で手術前にある程度診断できることが多いです(確定診断は手術後になります)。
  2. 濾胞癌(ろほうがん)
    手術前に診断することが難しく、通常は手術後に診断されます。乳頭癌と比べて、リンパ節に転移することは稀ですが、肺や骨に転移しやすい傾向があります。乳頭癌と濾胞癌をあわせて高分化癌(あるいは分化癌)と呼びます。良性の濾胞腺腫とあわせて濾胞性腫瘍とも呼ばれます。
  3. 低分化癌(ていぶんかがん)
    比較的悪性度の低い「高分化癌(乳頭癌や濾胞癌)」と、悪性度の高い「未分化癌」の中間に位置する甲状腺がんです。乳頭癌や濾胞癌と比べて、進行しやすく、肺や骨に転移しやすい傾向があります。
  4. 未分化癌(みぶんかがん)
    甲状腺がんの中では約1%と稀ですが、急激に進行し、1年生存率20%以下と極めて悪性度が高い甲状腺がんです。高齢者に多く、長年存在していた高分化癌(乳頭癌や濾胞癌)が変化して発生すると考えられています。
  5. 髄様癌(ずいようがん)
    甲状腺の細胞の一種類である「傍濾胞細胞(C細胞)」から発生する甲状腺がんです(乳頭癌や濾胞癌は「濾胞細胞」から発生します)。他の甲状腺がんとは異なり、CEA、カルシトニンが腫瘍マーカーになります。髄様癌の約40%は遺伝性に発生します。
  6. リンパ腫(りんぱしゅ)
    橋本病(慢性甲状腺炎)から発生する比較的稀な悪性腫瘍です。悪性度の高い甲状腺リンパ腫(びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫)だと、甲状腺が急速に腫れる場合があります。

甲状腺がんの検査

  1. 血液検査
    ・甲状腺ホルモン
    ・サイログロブリン
    サイログロブリンは甲状腺のみから産生されるタンパク質で、様々な甲状腺の病気で上昇します。甲状腺腫瘍においては、良性・悪性どちらでもサイログロブリンは上昇する場合があります。サイログロブリンの値が高いだけでは良性・悪性の判断はできませんが、サイログロブリンの値が異常に高く持続する場合は悪性の可能性を考える必要があります。
    乳頭癌と濾胞癌の手術後(特に甲状腺全摘後)の場合は、サイログロブリンが腫瘍マーカーになります。
    ・CEA、カルシトニン
    CEA、カルシトニンは髄様癌の腫瘍マーカーです。髄様癌が疑われる場合や、髄様癌の手術後の経過観察中に測定します。また、CEAは胃がんや大腸がんなど他の臓器のがんの腫瘍マーカーでもあります。
  2. 超音波検査
    腫瘍の位置、大きさ、見え方を確認したり、周囲のリンパ節の腫れがないかを確認したりします。腫瘍が大きい場合や、見え方から悪性が疑われる場合には穿刺吸引細胞診を行います。
  3. 穿刺吸引細胞診
    腫瘍に細い針を刺して細胞を採取し、良性か悪性かを調べます。
  4. CT検査
    ・胸部CT検査で肺に転移がないかを確認します。
    ・頚部CT検査で腫瘍の位置、大きさを確認したり、周囲のリンパ節の腫れがないかを確認したりします。

奈良甲状腺クリニックでは
  • 甲状腺ホルモン・サイログロブリンの検査結果を当日お伝えすることができます。
  • 超音波検査、穿刺吸引細胞診を当日行います(細胞診の結果説明は後日になります)。
  • 検査の結果は、甲状腺専門医・超音波専門医の院長が適切に判断いたします。

甲状腺がんの治療

  • 通常手術を行いますが、小さな乳頭癌(微小癌)の場合には手術を行わずに経過観察することもあります(積極的経過観察と呼ばれます)。
  • 手術後は経過観察を行いますが、悪性度が高い場合や遠隔転移がある場合は放射線治療(アイソトープ治療)を行います。
  • その他、病状に合わせて放射線外照射治療、薬物治療(分子標的治療、化学療法)を行います。

奈良甲状腺クリニックでは
  • 病状に合わせて、一人ひとりに最適な治療をご提案いたします。
  • 手術や放射線治療が必要な場合には、適切な医療機関をご紹介いたします。
  • 院長が勤務していた甲状腺専門の隈病院では「微小癌の積極的経過観察」を多くの患者さんに実施しており、当院でも「微小癌の積極的経過観察」を適切に行います。
    (参考:隈病院ホームページ「甲状腺微小がんは経過観察を推奨」

関連項目

参考文献

  • 日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会編:甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018
  • 日本内分泌外科学会・日本甲状腺病理学会編:甲状腺癌取扱い規約 第8版. 金原出版, 2019.

【診療科目】甲状腺内科、糖尿病内科、内科

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