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甲状腺機能低下症について

2022.01.27

奈良甲状腺クリニック　院長
中村　友彦
（日本甲状腺学会認定　甲状腺専門医）

甲状腺機能低下症とは

  • 甲状腺は「甲状腺ホルモン」というホルモンを作っていて、主な働きは全身の代謝を高めることです。
  • 甲状腺ホルモンが少ない状態を「甲状腺機能低下症」と呼びます。
  • また、甲状腺ホルモンが少なくなる一歩手前の状態を「潜在性甲状腺機能低下症」と呼びます。

甲状腺機能低下症の原因

  • 最も多い原因は「橋本病（慢性甲状腺炎）」です。
  • その他の原因には、甲状腺の手術後やアイソトープ治療後、ヨウ素の過剰摂取などがあります。
  • 明らかな原因がない場合もあります。
甲状腺機能低下症の主な原因
  • 橋本病（慢性甲状腺炎）
  • 甲状腺の手術後・アイソトープ治療後
  • ヨウ素の過剰摂取（海藻の過剰摂取、ヨウ素を含むうがい薬の多用など）
  • 頸部への放射線照射後
  • 薬剤の服用（抗甲状腺薬、アミオダロン、リチウムなど）
  • 一過性甲状腺機能低下症（無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎の回復期など）
  • 先天性甲状腺機能低下症（生まれつきの異常）
  • 中枢性甲状腺機能低下症（脳の異常）

甲状腺機能低下症の症状

  • 無気力、疲れやすい、まぶたのむくみ、寒がり、体重増加、動作緩慢、すぐに眠ってしまう、記憶力低下、便秘、声がれ、などの症状があります。
  • 軽度の甲状腺機能低下症や潜在性甲状腺機能低下症の場合、症状が出ないこともあります。

甲状腺機能低下症の検査

  • 血液検査で甲状腺ホルモンの量と甲状腺自己抗体の有無を確認します（甲状腺自己抗体陽性の場合、橋本病（慢性甲状腺炎）が疑われます）。
  • 甲状腺機能低下症により、高コレステロール血症、高CK血症、低ナトリウム血症、貧血などを認める場合があります。
  • 超音波検査で甲状腺の大きさ、甲状腺内部の見え方、腫瘍がないかを確認します。

奈良甲状腺クリニックでは
  • 甲状腺ホルモンの検査結果を当日お伝えし、当日治療を開始することができます。
  • 検査の結果は、甲状腺専門医・超音波専門医の院長が適切に判断いたします。

甲状腺機能低下症の治療

  • 甲状腺ホルモン剤（チラーヂンS®）内服による甲状腺ホルモン補充療法を行います。
  • ヨウ素の過剰摂取が疑われる場合には、薬を開始せずにヨウ素を制限して経過をみることもあります。
  • 一過性甲状腺機能低下症が疑われる場合には、薬を開始せずに経過をみることもあります。
  • 潜在性甲状腺機能低下症の場合には、薬を開始せずに経過をみることもありますが、妊娠希望や妊娠中の場合には積極的に治療を行います（流産や早産が増える可能性があるためです）。

奈良甲状腺クリニックでは
  • 病状や妊娠希望の有無に合わせて、一人ひとりに最適な治療を行います。

甲状腺機能低下症の治療中のTSHの値

  • 甲状腺機能低下症の治療においては、通常、TSH（甲状腺刺激ホルモン）の値が正常になるように治療を行います（TSHについては下記参照）。
  • 妊娠希望・妊娠中の場合、TSHが基準値内でも高めの場合は流産や早産が増える可能性があるため甲状腺ホルモン補充療法を行います。
  • 特に橋本病（慢性甲状腺炎）がある場合や不妊治療を行う場合にはより積極的に治療を行います。
  • 甲状腺の手術後・アイソトープ治療後で、甲状腺がない場合や甲状腺が小さくなっている場合には、TSHが基準値よりも少し低くなるように治療を行います。
  • これは、甲状腺がない場合や甲状腺が小さくなっている場合には、TSHが基準値よりも少し低い方が正常な代謝状態になるためです（参考文献1～4）。
  • 甲状腺悪性腫瘍（甲状腺がん）の手術後で、悪性度が高いがんであった場合や遠隔転移がある場合には、がんの進行を抑えるためにTSHをさらに低くすることもあります。

TSH（甲状腺刺激ホルモン）について
  • TSHは脳下垂体から分泌されるホルモンで、甲状腺に働きかけて甲状腺ホルモンの分泌を促進する作用があります。
  • 甲状腺機能低下症になると、甲状腺ホルモンの分泌を促進しようとして、通常はTSHの分泌が増えて値が高くなります。
  • 逆にバセドウ病など甲状腺機能亢進症になると、甲状腺ホルモンの分泌を抑えようとして、TSHの分泌が減って値が低くなります。

関連項目

参考文献

  1. Ito M, et al. TSH-suppressive doses of levothyroxine are required to achieve preoperative native serum triiodothyronine levels in patients who have undergone total thyroidectomy. Eur J Endocrinol. 2012 Sep;167(3):373-8. (PubMed)
  2. Ito M, et al. Biochemical Markers Reflecting Thyroid Function in Athyreotic Patients on Levothyroxine Monotherapy. Thyroid. 2017 Apr;27(4):484-490. (PubMed)
  3. Ito M, et al. Thyroid function related symptoms during levothyroxine monotherapy in athyreotic patients. Endocr J. 2019 Nov 28;66(11):953-960. (PubMed)
  4. Ito M, et al. Serum Thyroid Hormone Balance in Levothyroxine Monotherapy-Treated Patients with Atrophic Thyroid After Radioiodine Treatment for Graves’ Disease. Thyroid. 2019 Oct;29(10):1364-1370. (PubMed)

【診療科目】甲状腺内科、糖尿病内科、内科

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