奈良甲状腺クリニック 院長
中村 友彦
(日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医)
橋本病(慢性甲状腺炎)とは
- 甲状腺は「甲状腺ホルモン」というホルモンを作っていて、主な働きは全身の代謝を高めることです。
- 甲状腺ホルモンが少ない状態を「甲状腺機能低下症」と呼びます。
- 甲状腺ホルモンが少なくなる原因はいくつかありますが、代表的な病気が「橋本病」で、「慢性甲状腺炎」とも呼ばれています。
橋本病(慢性甲状腺炎)の原因
- 橋本病(慢性甲状腺炎)では、「甲状腺自己抗体」(抗甲状腺マイクロゾーム抗体(抗TPO抗体)や抗サイログロブリン抗体(抗Tg抗体))というものが体内で作られて、それにより甲状腺に炎症が生じて、甲状腺が腫れて大きくなったり、甲状腺機能低下症になったりします。
- 甲状腺自己抗体ができる原因は、橋本病(慢性甲状腺炎)になりやすい体質(女性、遺伝的なもの)、妊娠、年齢などが考えられています。
橋本病(慢性甲状腺炎)の症状
- 甲状腺全体が腫れて大きくなる場合が多いですが、逆に甲状腺全体が縮んで小さくなる場合もあります。
- 甲状腺機能低下症になると、無気力、疲れやすい、まぶたのむくみ、寒がり、体重増加、動作緩慢、すぐに眠ってしまう、記憶力低下、便秘、声がれ、などの症状があります。
- 甲状腺ホルモンが正常で、症状がない場合も多いです。
橋本病(慢性甲状腺炎)の検査
- 血液検査で甲状腺ホルモンの量と甲状腺自己抗体の有無を確認します(甲状腺自己抗体陽性の場合、橋本病(慢性甲状腺炎)が疑われます)。
- 甲状腺機能低下症により、高コレステロール血症、高CK血症、低ナトリウム血症、貧血などを認める場合があります。
- 超音波検査で甲状腺の大きさ、甲状腺内部の見え方、腫瘍がないかを確認します。
橋本病(慢性甲状腺炎)の治療
- 甲状腺機能低下症を認めた場合には、甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS®)内服による甲状腺ホルモン補充療法を行います。
- 軽度の甲状腺機能低下症の場合には、治療を行わずに経過をみることもありますが、妊娠希望や妊娠中の場合には積極的に治療を行います(流産や早産が増える可能性があるため)。
- 甲状腺ホルモンが正常の場合、通常は治療の必要はありませんが、甲状腺の腫れが気になる方に対しては、甲状腺ホルモン補充療法を行うこともあります。
- 甲状腺ホルモンが正常で、甲状腺の腫れが気にならない場合でも、徐々に進行することがあるため定期的に検査を行う必要があります。
橋本病(慢性甲状腺炎)のヨウ素(ヨード)制限
- 橋本病(慢性甲状腺炎)でヨウ素を過剰に摂取すると、甲状腺機能低下症が発症・悪化する場合があります。
- ヨウ素を多く含む海藻(特に昆布)の過剰摂取や、ヨウ素を含むうがい薬の多用は避けるようにしましょう。
橋本病(慢性甲状腺炎)の合併症
橋本病(慢性甲状腺炎)では以下のような合併症を伴う場合があります。
無痛性甲状腺炎
- 一時的に甲状腺ホルモンが多くなりますが、自然に改善します。
- 甲状腺ホルモンが多くなるバセドウ病との鑑別が問題になります。
甲状腺リンパ腫
- 橋本病(慢性甲状腺炎)から発生する比較的稀な悪性腫瘍です。
- 悪性度の高い甲状腺リンパ腫(びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫)だと、甲状腺が急速に腫れる場合があります。
橋本病(慢性甲状腺炎)の急性増悪
- 甲状腺の痛みや発熱を伴う稀な病気です。
- 同様の症状の亜急性甲状腺炎とは異なり、薬が中止できず、手術(甲状腺全摘)が必要となる場合もあります。
関連項目
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